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概要
顔面骨骨折の治療は、緊急手術となることは少なく、生命に影響を及ぼす他の病態がないことを確認した後、救命治療が終了した後に治療を検討します。
診断
症状に加えて、レントゲンやCTで診断を確定します。CTは、状況に応じて三次元構築(三次元立体画像を作成)することで、骨折状況をより理解しやすくすることに役立ちます。眼窩に関連する骨折では視力・眼球運動検査など眼科的な検査も必要です。
治療の目的
治療の目的は、機能の修復と形態の修復に大別され、代表的な機能障害として
■ 眼窩骨折に伴う複視(眼球の動きが障害され、物が二重に見える)
■ 頬骨や下顎骨の骨折に伴う開口障害(口が充分開かない閉まらない)
■ 上顎・下顎の骨折に伴う咬合不全(噛み合わせ異常)
■ 眼窩・頬骨骨折に伴う知覚異常(頬や歯茎の感覚が低下する)
があり、これらの改善が手術治療の目的となります。骨折に伴う形態の異常は必ずしも手術治療の適応とはならず、ご本人が形態を気にする場合に手術治療を検討します。
当科での治療方針
顔面骨骨折は骨折して変位した骨を元の位置に戻したのちに、内固定といって、さまざまな固定材料で骨を固定(接合)します。この際に、当科では、手術による新たな傷を極力避け、また内固定を最小限にするよう努めています。内固定の材料も、チタン製の非常に小さなプレートから、自然に吸収される吸収性プレートなど、適応に応じてさまざまに使い分けています。 骨接合用のプレート(チタンプレート・吸収性プレート)
鼻骨骨折
骨折により、つぶれて低くなったり(鞍鼻)、斜めに曲がったり(斜鼻)と形態の変形をきたします。鼻づまりなどの機能的障害を招くこともありますが、治療の主目的は形の回復にあるので、変形の程度をよく見極めて治療の適応を決めます。 診察時、形態異常が明らかであれば治療を即日に行うこともあります。変形の程度が軽い場合には、腫れが十分軽快し変形の程度をみてから治療することもあります。治療は、鼻骨の整復鉗子を用いて折れ曲がった骨を元に戻します。通常局所麻酔下に治療しますが、受傷から時間が経って整復が困難な場合や子供さんの場合、入院の上、全身麻酔下で行うこともあります。
頬骨骨折
頬骨は、頬部(眼の下から外側)の高まりを形作っており、この部の強い打撲によって骨折します。機能的には開口障害を認めることが多く、頬部の知覚障害や頬部の平坦化などが主たる症状となります。複雑な眼窩骨折を伴うと眼球運動障害をきたすこともあり、骨折の程度・症状により手術の内容は大きく異なります。骨片の転位が軽度で骨折による症状もほとんど認めない場合には手術は必要としませんが、変形が強い場合や障害が重度であれば手術による整復が必要となります。
上顎骨折・下顎骨折
いずれも、受傷後、歯の噛み合わせ異常を自覚するようになります。治療は、咬合(噛み合わせ)の回復が主目的となり、手術によって噛み合わせを修復し、上顎と下顎をワイヤーや輪ゴムで固定する顎間固定という処置を数週間行います。 顎骨骨折に伴う咬合不全(咬合とCT所見)
眼窩骨折
頬骨骨折などに合併するものの他に、眼部にソフトボールや肘・膝などがあたって眼の奥の薄い骨が折れる骨折があります(ブローアウト骨折)。症状として複視、眼球陥凹、頬部や上唇のしびれを生じます。小児で高度な眼球運動障害を認める場合などは、受傷後早期の手術が望ましい場合もあります。
手術は、骨折部に陥没した眼窩内容(主に脂肪組織)をもとの位置に戻し、骨欠損が生じた場合、骨・軟骨移植あるいは人工物(人工骨などの人工材料)を用いて眼窩壁(床)の修復をします。
陳旧性顔面骨骨折の顔面変形
顔面骨骨折の治療は、様々な事由により初回手術では形態の回復を十分に行えないことがしばしばあります。このような場合には、全身状態・局所状態の回復を待って後年に形態の改善手術を行うことがあります。体表のキズアトやひきつれのみならず、骨格の形態異常が顔貌に及ぼす症状としては、骨格の非対称と眼球の陥没が代表的です。
顔面非対称
骨折の後遺症により骨格の非対称が顔貌に影響を及ぼす場合には、骨格の対称性をとりもどす手術が行われます。顎顔面外科手術の技術を応用し、骨切り・骨移動によって対称性を取り戻す場合と人工骨などを用いて形態を改善する場合があります。
眼球陥凹
眼窩骨折や頬骨骨折の初回手術では、視機能の温存(安全)を優先する場合など、十分に眼窩形態を整えられないことがあります。多くの場合、眼窩が拡大してしまうことにより眼球が陥凹する症状(眼球陥凹)が遺ります。これに対しては、眼窩容積を適正に戻す手術を行います。
最後に
最近は、交通事故などによる重症な顔面骨骨折よりもスポーツや自転車での転倒などを原因とする比較的軽度の顔面骨骨折の割合が増えています。このような骨折では、可及的な整復(骨を元の位置に戻す)を行ったのち、必ずしも骨折部位全てを固定する(プレートなどで骨接合する)必要はありません。従って、手術による侵襲もなるべく最小限となるように、整復の方法、骨接合の方法、ともに工夫しています。
また、複視や感覚障害などの機能障害は、術後直ちに症状が消失するわけではなく、回復には数週から数ヶ月かかるのが普通です。骨折が重度の場合、頭蓋損傷や視力障害が危惧される場合には、骨格形態を回復することが困難なこともあります。新鮮例、陳旧例ともに、症状に応じた適切な治療法の選択が望まれます。
最小限の侵襲による治療の追求:構造解析の手法を取り入れて最小限の骨接合で適切な骨固定を目指しています。